続・東京都の「BL規制」に関するちょっとした考察
当事者の方からの感想を読んで
前回のブログで、「性のダブルスタンダード」ゆえにBLのゾーニングは難しいのではないかという旨のことを書いた。そしたら、腐女子当事者の方々から、「私はそんなこと気にしていない!むしろ、ゾーニングしてもらって、堂々とBLが買いたい!R18指定してもらった方が白抜きも少なくなる!」という意見をたくさんいただいた。
上記の「性のダブルスタンダード」の命題は守如子『女はポルノを読む』を参考にして導き出したものだ。守は「ポルノグラフィを女性が買うことは、性の二重規範を侵犯するために男性以上に批判される可能性がある。また、女性自身が性的好奇心の対象にされ、性被害に直面することさえありうる。だから。女性たちにとっては、ポルノグラフィを買っていることが明らかになってはならないのである。」(守 2010,85-86)と述べている。その結果として、BL・TLというジャンルは、ポルノチックなものとそうでないものが混在し、表紙がポルノチックでないものが大半である(守は「ハードなBLも、レディコミと同様に、表紙に男性の裸体を使うことはない」と言い切っている。(守 2010,85))。
上記のような守の議論を敷衍させれば、女性はポルノグラフィを買っていることが表ざたになってはならないため、ポルノをポルノとして隔離するゾーニングをBLに適用することは大きな問題を抱えることになる。
しかし、確かに東京都の指定を食らっているBLの表紙は明らかにポルノチックなものがある。例えば、7月に指定を食らったGO毛力『ごちそうさま、ヴァージンチェリー』の表紙は、男性の乳首が出てしまっている(図一)。同じく7月指定された綿レイニ『PLAYMATE』も裸体が出ている(図二)。表紙帯には「ナカでイクとこ見てもらおうよ」とかなりポルノチックな煽り文句が並んでいる。
このように指定されている書籍のの表紙はかなりポルノチックなものだ。守が述べている状況とは異なる事態が生じていることは間違いないだろう。一体どういうことなのか。
電子の影響?
実数は不明だが、BLにおいても、電子書籍化の波が押し寄せている。寄せられたコメントの中にも「電子しか読まないから関係ないよ」と言っている腐女子の方がいらっしゃった。
電子だけで読む場合、守が述べている性のダブルスタンダードの問題は完全に解決されることとなる。ポルノグラフィを読むことを成立させる条件として、一人でそういった行為に臨む「個室」が必要であることがあげられるが、電子の場合、お店に行って買いに行ったり、誰かに貸してもらったりするなどの相互行為を媒介させる必要はなく、完全にベッドの上で行われる(?)個人的行為になるためである。
この場合、「ポルノグラフィを読んでいるのがバレてはいけないから、過激なものをパスする」といった行動は起こらない。むしろ、だれにもばれないから過激なものを求めるといった心情を可能にする条件を提供する。
ともなると、電子書籍の登場はBLを過激化する条件として成り立っている可能性がある。
「過激な」BLが紙媒体で、本屋で売られているのも、電子の影響だとするのなら説明がつく。完全に個人的な行為として電子でBLを読むという行為が当たり前となった結果、性のダブルスタンダード規範の「内面化」が弱まり、電子での表現を受けて、「過激な」表現の漫画の購入を女性がいとわなくなったのではないか。
じゃあどういうふうにゾーニングの制度を構築するべきか
意見を聞いて思ったのは「昔ほど性の二重規範の影響は強くないんじゃないか」ということに尽きるといってもいい。弱まっていることを認めるならば、ゾーニングを認めよという帰結に至ることは想像に難くない。では、どういう形でゾーニングをすることが理想的なのだろうか。今思いつく限りでは三つ解決策があるように思われる。
1・すべてのBLに成人コミックマークをつけて、男性向けと同じようにゾーニングをする。
2・守が述べているように、ポルノチックなBLとそうでないBLがある。となれば、エッチなものはゾーニングして、そうでないものはしないで売る。
3・全部電子にする。
この三つの中であれば、2が一番穏当であると考える。性のダブルスタンダードが弱まっていることと「過激な」BLが増えていることを認めてゾーニングし、そうでない「穏やかな」(?)BLは分けずに置けばいいのである。男性向けもこうなっている。そもそも「BL」「美少女コミック」といったジャンル分けでゾーニングをするとあまりエッチじゃないものも含まれてしまう。
ここで生じてくる問題は、そもそも分けるスペースがどこにあるのかという問題とスペースが女性用だけでは確保できず、男性向けのコーナーと同じところに配置されてしまうのではないかという懸念だ。この問題をどうすればいいのかということは議論が望まれるところだろう。
引用文献
守如子(2010)『女はポルノを読む』青弓社.
GO毛力(2019)『ごちそうさま、ヴァージンチェリー』三交社.
綿レイニ(2019)『PLAYMATE』 Jパブリッシング .